ブランド志向からの脱却
 今や、日本に限らず、世界各国は自国のことだけを考えていればすむ時代ではありません。
人口問題、環境問題、食糧問題・・・地球規模の問題を真剣に考えていかなければならないのです。
 人口は爆発的な増加を続けています。深刻な食糧難が現実としてあります。
 このまま放置すれば、やがて奪い合いが始まるでしょう。環境汚染も、もはや一刻の猶予も許され
ない段階だし、天然資源の問題も深刻です。いつか石油は枯渇します。石油埋蔵量については諸説
ありますが、あと40数年しかもたないという試算もあります。
 無責任な大人なら、そんな先のこと私には関係ないと、これまでどおり、車を乗り回し、クーラーを
かけっばなしにして涼しい顔をしていられるかもしれません。
 しかし、21世紀を生きて行く子どもたちにとっては、すべてが切実な、自分自身にふりかかっでくる
問題です。地球規模の問題をひとつひとつ解決していかなければ、人類に未来はありません。
 「農業高校に行っても、良い会社に入れない。偏差値の高い普通料高校に行きなさい」
 そんな視野の狭い、古い価値観で子どもに指図する親がいるなら、今こそ誤りをただしてください。
 農業に打ち込もうとする子どもがいなくなったら、誰が食糧問題を解決できるのですか? 
 今、ひとりひとりに、宇宙船地球号の乗組員としての自覚が求められているのです。
 世界中の人が地球号を支える責任があることを自覚し、地球規模でものごとをとらえていかなけ
ればならない時代なのです。
 そのような時代を迎えようとしている時、開成だ鶴丸だと騒いで、ほんの狭い地域でしか通じない、
浅はかなブランド志向に振り回されていて良いはずがありません。
 21世紀の学校選びでは、どうか、ブランド志向を捨て去ってください。

                                      中学生を救う30の方法(講談社)
                                                寺脇 研
                                                 p.14..15




学歴社会から実力社会へ
 学歴社会の前提だった一括採用、終身雇用、年功序列というシステムが崩壊し、学歴信仰はあらゆる
職場でどんどん消滅しています。
 典型的な例をあげれば、メーカーのソニーは、91年から就職試験の受験者に最終学歴を書かせてい
ません。
 世界を舞台にビジネスを展開しているソニーの幹部は、日本の中でしか通用しない高学歴という基準が
どれだけ無意味か分かっているのです。
 そして、この考え方は、トヨタ自動車、アサヒビールなどの企業にも広がっています。労働省の調査によ
れば、従業員5000人以上の大企業の34%は出身大学名を問わなくなっているのです。
 国際的な大競争時代を迎え、企業間の競争は激しさを増しています。
つねに倒産というリスクと背中あわせにある民間企業は、学歴だけを見て採用した人に仕事を任せ、業績
を悪化させるわけにはいきません。真剣に人間の中身というものを見るようになってきています。
 公務員の世界も変わろうとしています。
 首相の諮問機関である公務員制度調査会は、いわゆるキャリア官僚でも不適格と判断されれば、幹部
に昇進させない人事管理をすべきだという提言をまとめようとしているのです。
 日本社会全体が「どこで学んだか」ではなく、「何を学んだか」を問う社会に向かって、大きく変わり始め
ています。
 その傾向がもっとも顕著に現れるのが、転職者の採用時です。
 ほとんどの企業の採用担当者は、転職者を採用するとき学歴は一切見ないと明言しています。
 では何を見るのでしょうか?
 「あなたには何ができるのか?」
 採用担当者はこの一点にしか興味がありません。これまでどんな仕事をしてきたか、どのような成果
をあげたのかです。
 今や転職はあたりまえのことになっています。
 現在、大学を卒業してから3年以内に転職する社員の割合は、就職者の約28%に達しています。
 ひとつの職場にしがみつくのではなく、より自分に合う仕事を求め転職していく。
 そのようなことがあたりまえになる時代に、学歴など何の意味も持ちません。

                                      中学生を救う30の方法(講談社)
                                             寺脇 研
                                              p.15..16




不公平?
 ある作家が大学に講師を頼まれて、何回かにわたって講義をした時のことです。
 最後の講義で、「私はプロの講師ではないから、1回でも講義に出てくれた人には優を上げる」
と言ったそうです。すると、それまですべての講義に出席していた学生が、憤懣やるかたないといった様子
で抗議に来ました。「A君は最後の1回しか出ていないのに優をもらうのはズルい。全部出席した僕は損じゃ
ないですか」
 作家はこう答えました。「なぜ損をしたことになるのです? 私の講義をすべて聞いた君は、そこから何か
得るものがあったでしょう。君は得をしたはずです」
 この学生などは、点数を取るためだけに勉強をしてきた人の典型です。偏差値で自分の価値をはかって
きた人たちは、自分より数値が低い人と肩を並べることは損だと考えるのです。
 こんな考え方があたりまえになっている世の中では、お年寄りを大切にしよう、障害者に手を差しのべよう
と、いくら声高に叫んだところで、弱者にやさしい社会など作れるはずがありません。

                                        中学生を救う30の方法(講談社)
                                              寺脇 研
                                               p.76..77