【内発的動機付け】

内発的動機付け研究で有名なデシ(Deci)によれば、
他者から強制されない「自己決定」(自律性)、
自己の能力の高さを認識する「有能感」、
他者との安全な関係が保たれているという感覚である「関係性」

の三要素が満たされているときに内発的動機付けが高まるという(デシ・フラスト、1999)。
このうちの関係性は、教える側と学習者の間の人間的な結びつきに関係している。
学習者が教える側に受け入れられているという感覚が、自ら学ぼうという意欲、
すなわち内発的動機付けを高める基礎になっているということである。


「子どもの知的好奇心を引き出す授業」
教育展望 2004.5月号 pp.16
古川雅文(兵庫教育大教授)




評価に対する安全志向

 知的好奇心の発生条件のひとつが、「自分にはわからないことがある」ことの自覚であることを前述した。
 わからないから学ぶのであり、それゆえわかったときの喜びや満足も大きいものがある。
 しかし、現代の子どもたちの特徴のひとつは、自分ができないことやわからないことを隠そうとする傾向が強いことだ。
心理学でいう自己価値理論では、自分の能力の不足が他者にわかると、自分に価値感を抱くことが難しくなるので、
それが知られないように防衛しようというメカニズムが働くと考える。
 実際は、現代の子どもには、このメカニズムに「誇大的なプライド」が重なり、「自分が無能でないこと」を人前で装ったり
振舞ったりする人が多くなっている。

 このような現象は、思春期以降、他人の評価が気になることで増幅されるところもあるが、すでに幼児でも、
特に知的早期教育を受け、大人から○や×の評価をふだんたっぷりと与えられる子どもを中心に発見されている。
私どもの大学の「子ども相談室」にも、挑戦心がまったく見られずに、親から「無気力」と判断された幼児が心理療法を
受けに通ってきている。
 家庭や幼稚園で「できた」「できない」の評価を受けて、すっかり「安全志向」や「自己防衛」が身に付いてしまった子どもである。

 このような志向や態度は、現在幼児の世界でも一定の広がりを見せているのであろうが、小学生ではさらに大きく拡大していると見てよい。
 こうした現状の背景には、「できないこと」「わからないこと」があってはいけないこと、それらが「悪」であるような誤信念の刷り込みが、
小さな子ども時代から行われていることがある。
 その結果、「できないこと」がないかのように、「わからない」ことがないかのように装い、「できても当たり前」「わかっても当たり前」の
無感動の学習が日々進行していく。
このような誤信念が蔓延している状況が、学習場面で子どもたちの知的好奇心が登場することを奪っている。


「知的好奇心を引き起こす教育」
新井邦二郎(筑波大教授)
教育展望 2004.5月号 pp.10..11