現代に生きる雅楽の言葉 | |
雅楽というと普段の生活に馴染みのない退屈な音楽という印象で受け取られやすいのですが,実は私たちが日常使っている言葉の中に 雅楽の用語がたくさんあり,決して一般の生活とかけ離れたものではなかったことをうかがわせます。 ここではそのような言葉の中からいくつか紹介してみたいと思います。 |
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【打ち合わせ】 | 管絃合奏の時に打楽器を打って他の楽器とうまく合わせることを雅楽では「打ち合わせる」と言っていました。 ここから,都合良く物事が運ぶように前もって相談しておくことを「打ち合わせる」と言うようになったのです。 |
【申し合わせ】 | 雅楽において本番さながらに行われる総練習,いわゆる「ゲネプロ」を指す言葉「申合」から転じて,あることを行う前に約束事を決めることを表現する場合に使われています。 |
【おつ】 | 雅楽の歌謡では,同じ音のオクターブ高い方の音を「甲」,オクターブ低い方の音を「乙」と呼びます。 このことから,低く渋い声,さらに転じて渋くて粋な様子を「おつ」というようになったのです。 つけ加えると,「かん高い声」の「かん」は「甲」で,「甲乙」をまとめて「かんおつ」と呼んだことに由来する「甲」からきていることは言うまでもありません。 |
【千秋楽】 | 大相撲の最終日のことを「千秋楽」と呼ぶのも,実は雅楽の管絃の曲の名前に由来しています。 仏教では説法や修行を行う法会という集会が行われますが,この法会の最後に「千秋楽」という曲がよく演奏されたそうです。ここから転じて相撲やや歌舞伎の興業の最終日のことを「千秋楽」と言うようになったそうです。 |
【ろれつがまわらない】 | 酒に酔ったりして舌がもつれ言葉が怪しくなることを「ろれつがまわらない」と言いますが,この「ろれつ」も雅楽の「呂律」に由来しています。 これは,雅楽の旋法(音階のようなものと思って下さい)の「呂(りょ)」と「律(りつ)」とを組み合わせたもので,しゃべる調子のことを意味しています。 そこで,言葉がはっきりしないことを「ろれつが回らない」とか「ろれつが怪しくなる」などと言うようになったと思われます。 |
【やたら】 | 「やたらに多い」「やたらめったら」など「むやみに」という意味で用いられ,「矢鱈」などと書かれますが,これは完全な当て字です。 もともとは,雅楽の拍子の一つである「やたら拍子」に由来する言葉です。 「やたら拍子」とは,わかりやすく言えば2拍子と3拍子が交互に現れる混合拍子で,入り交じっているために演奏に困難をきたしたと言われています。そのため,なかなかうまくいかず,途中でバラバラになってしまうこと が多かったとか。そこで,めちゃくちゃになってしまうことを「やたら」と言うようになったということです。 |
【や ぼ】 | 雅楽に使われる「笙」という楽器は,17本の竹の管を組み合わせてつくられています。その中のいくつかの管に息を吹き込み,和音を演奏するわけですが,それぞれの竹の管にはリードがついていて,どの管から出る音にも名前がついています。 その17の音を書くと次の通りです。 「比 毛 乞 上 行 七 言 也 八 一 美 工 乙 下 十 千」 ところが,日本に笙が入ってきて間もなく,(おそらく日本になじまないという理由からか)そのうちの2つの管が使われなくなってしまい,ついにはリードそのものもはずされてしまったようです。つまり,その2つの管は吹いても音が出なくなってしまったのです。 その2つの音が「也(や)」と「毛(もう)」で,音韻変化して「やぼ」になり,「価値がない」とか「風流でない」という否定的な意味で用いられるようになったと思われます。 |